網膜剥離・網膜裂孔
網膜は、目の中でカメラのフィルムのような役割を果たす神経の膜です。
- 網膜裂孔: 網膜の一部に穴があいた状態です。
- 網膜剥離: 網膜裂孔から目の中の水分がが入り込み、網膜が剥がれてしまった状態です。眼科疾患の中でも極めて緊急性が高く、迅速な治療を行わないと失明に至る恐れがあります。
1. 症状について:見逃してはいけない「進行」のサイン
網膜剥離には痛みがありません。そのため、以下の症状を「ただの疲れ目」や「いつもの飛蚊症」と軽く考えて放置することが、視野や視力を失う大きな原因となります。
- 急に増えた、あるいは突然現れた「飛蚊症」
- 症状: 目の前に黒い点やゴミのようなものが、ある日突然、大量に舞って見える。
- 見逃すと危険な理由: 網膜に穴(網膜裂孔)が開いた際、飛び散った網膜組織や出血が目の中を舞っている状態です。これは**「今、網膜剥離が始まろうとしている」**という警告です。放置すると網膜剥離に進展し、数時間から数日で手遅れな状態まで剥離が一気に広がる恐れがあります。
- カーテンが引かれたような「視野の欠け」
- 症状: 上下左右、どこか一方向から視野が暗く欠けて見える。
- 見逃すと危険な理由: すでに網膜が剥がれ始めている直接の証拠です。剥がれた網膜は光を感じることができず、放っておくと重力や眼球の動きで剥離の範囲がさらに拡大します。一刻も早く手術で食い止めなければ、視野の大部分を失うことになります。
- 急激な「視力低下」
- 症状: 視野の中心が急激に見えなくなる、全体が極端に霞む。
- 見逃すと危険な理由: 剥離が、ものを見る中心部「黄斑(おうはん)」に達したサインです。黄斑は視神経が集中する最も大切な場所です。一度剥がれてしまうと、たとえ手術で網膜を元の位置に密着させることができても、元の視力には戻らなくなったり、ゆがみが残ったりするなど、決定的なダメージを負ってしまいます。
2. 原因とリスク
- 加齢(後部硝子体剥離): 50代以降に多く見られます。目の中を満たしているゼリー状の「硝子体」が加齢とともに網膜から剥がれていく際、網膜を強く引っ張ってしまうことで穴が開きます。
- 強度近視: 眼球が前後に長いため網膜が薄く、若い世代(20代など)でも発症のリスクが高いのが特徴です。
- アトピー性皮膚炎 :「痒み」により、目を繰り返し擦ったり叩いたりといった刺激が加わることで発症します。
- 外傷: 目に強い衝撃が加わることで網膜が損傷し、裂孔や剥離が生じることがあります。
4. 診断と検査
網膜剥離の診断では、網膜の状態を多角的に把握するために以下の検査を行います。
- 眼底検査(散瞳検査) 目薬(散瞳薬)で瞳を大きく広げ、医師が網膜の隅々まで直接観察します。網膜に開いた穴(裂孔)の場所や、剥離の正確な範囲を特定するために欠かせない検査です。
※点眼後は4〜5時間ほど眩しく、ピントが合いにくい状態が続きます。ご自身で車やバイクを運転しての来院は控えてください。
- 眼底写真 網膜の広範囲な状態を画像として記録します。剥離の広がりや位置を客観的に把握します。
- OCT(光干渉断層計)検査 網膜の断面を精密に撮影します。ものを見る中心部である「黄斑(おうはん)」が剥離に含まれているかを確認し、術後の視機能がどの程度回復するかを予測するために有用です。
3. 治療について
網膜剥離の治療は、病態(剥がれ方、年齢、進行度)に応じて最適な方法を選択します。
レーザー治療(網膜光凝固術)
網膜剥離へ進展する前の「網膜裂孔」の段階であれば、外来でのレーザー治療が可能です。
- 仕組み: 網膜にあいた穴の周囲にレーザーを照射し、網膜を眼球の壁側に焼き付けます。 これにより、穴から網膜の下へ水が回り込むのを防ぎ、剥離が広がるのを未然に食い止めます。
- 適応: 網膜裂孔のみの場合や、剥離があってもごく限局的な範囲であれば、レーザーで対応できることもあります。
硝子体手術
網膜剥離に対し、目の中から直接アプローチして治療する方法です。
- 仕組み: 網膜を引っ張る原因となっている硝子体を取り除き、網膜の下に溜まった水を抜き取ります。その後、穴(裂孔)の周囲にレーザーを照射し、最後に目の中へ医療用ガスを充填します。注入したガスの「浮かび上がる力(浮力)」を利用して、内側から網膜を眼球の壁に押し当てて密着させることで網膜剥離を治療します。
- 術後の体位制限: 注入したガスの「浮かび上がる力(浮力)」を利用して、内側から網膜を押し当てて接着させます。そのため、一定期間「うつぶせ姿勢」などの体位制限が必要です。この期間の姿勢維持が、網膜を接着させるための大切なプロセスとなります。
強膜内陥術(バックリング手術)
網膜剥離に対し、目の外からアプローチして治療する方法です。
- 仕組み: 眼球の外側から網膜の穴(裂孔)の周囲に「冷凍凝固」を行い、網膜と壁が接着しやすい状態を作ります。その上で、シリコン製のスポンジをあてて外側から眼球の壁を押し当てることで、剥がれた網膜を壁に密着させることで網膜剥離を治療します。
- 特徴: 目の中から硝子体を取り除かないため、自分の目のレンズ(水晶体)を残しやすく、若い方の調節力を維持するのに有利な術式です。
4.手術前に知っておいていただきたいこと
網膜剥離は、手術によって網膜を元の位置に密着(復位)させることが治療のゴールですが、「剥がれる前の状態に完全に元通りになる」わけではありません。
①残存する視野障害と後遺症について
網膜は神経組織であるため、一度剥がれてしまうと、たとえ手術で戻したとしても少なからずダメージが残ります。
- 視野障害: 黄斑(中心)以外の部分であっても、一度剥がれてしまった範囲の視野障害(見えにくい、欠けている感じ)は後遺症として残ります。
- 黄斑剥離がある場合: ものを見る中心部である「黄斑」まで剥離が及ぶと、網膜を戻しても視力低下や歪み(変視症)が残ることが多いです。
ポイント: 視野障害が残るからこそ、その範囲を広げないための「早期手術」が極めて重要です。
② 手術の成功率と再発のリスク
網膜剥離の手術は一度で完了することを目指しますが、病態によっては網膜が再び剥がれる「再剥離」が起こる可能性があります。 世界的に信頼されている医学研究データに基づく、初回手術での網膜復位率(網膜が密着する確率)の目安は以下の通りです。
- 硝子体手術:約90~95%(JAMA / StatPearls 引用)
- 強膜内陥術(バックリング手術):約85~91%(Cochrane Library 引用)
【再剥離への備え】 一度の手術で密着が得られない場合や、術後に新しい穴(裂孔)が生じて再剥離を起こした場合には、視機能を守るために速やかに追加の手術が必要となります。術後の経過観察が、視機能を守るための鍵となります。
③視機能の回復には時間がかかります
手術によって網膜が密着しても、すぐに視力が回復したり視野が明るくなったりするわけではありません。
- 状態が落ち着く(固定する)までには、数ヶ月から半年以上の期間を要します。
- ダメージを受けた視細胞がゆっくりと修復されるのを待つ必要があります。
当院の診療体制と連携について
- 豊富な執刀経験に基づいた診断
網膜剥離は一刻を争う疾患です。数多くの網膜手術を執刀してきた経験を活かし、詳細な眼底検査を行います。
- 基幹病院との強力な執刀連携
精密検査の結果、手術が必要と判断した際は、副院長が現在も執刀を担当している「眼科三宅病院」をはじめ、高度な手術設備を備えた施設へスムーズにご紹介いたします。
- 安心の術後フォローアップ
手術後の大切な経過観察は、再び当院にて落ち着いて継続いただけます。術後再剥離や黄斑パッカー等の変化を執刀経験者の視点できちんと確認し、術後の視界の変化や不安を末長くサポートします。
医師からのメッセージ
網膜剥離は、ある日突然、大切な目を脅かす病気です。 「このまま見えなくなってしまうのではないか」という不安は計り知れません。 しかし、早期発見と適切な治療で、守れる光は必ずあります。 「おかしい」と感じたら、迷わずご相談ください。